雪解けの村で一家八人が消えた

北海道・音江村一家八人殺害事件

昭和二十三年――。

戦争が終わってから、まだ三年も経っていなかった。

日本はようやく、戦争という巨大な災厄の瓦礫の中から立ち上がろうとしていた。

都市には焼け跡が残り、物資は不足し、人々は配給だけでは足りない食料を求めて闇市を歩いた。

しかし、北海道の農村では、東京や大阪とは少し違った戦後が流れていた。

広大な畑。

雪。

厳しい寒さ。

そして、春の訪れを待ちながら黙々と土と向き合う農家の人々。

北海道空知郡音江村。

現在の深川市周辺にあたるこの農村で、戦後北海道犯罪史の中でも異様な事件が発生する。

ひとつの農家から、一家八人の遺体が発見されたのである。

父。

母。

そして、六人の子供。

生き残った者は、一人もいなかった。

犯人は、一家を文字通り家族単位で消し去っていた。

しかも事件は、単なる大量殺人事件として終わらなかった。

警察は一人の男を逮捕した。

男の衣類などから血痕らしいものが見つかった。

事件直後の男には、不可解とも思える言動があった。

検察は男を犯人として法廷へ送った。

ところが――。

裁判では、事件の根幹ともいえる証拠が揺らぎ始める。

一方の法医学者は、

「人血である」

と判断する。

別の法医学者は、

「血痕そのものが認められない」

と判断する。

現場の足跡にも疑問が生じた。

そして裁判所が出した答えは、

無罪。

その後も真犯人は明らかにならなかった。

こうして八人もの命を奪った北海道屈指の大量殺人事件は、犯人を確定することのできないまま、歴史の闇へ沈んでいくことになる。