大正15年 佐々木長左衛門『アイヌの熊狩と熊祭』 現代文

はしがき

北海道といえば、すぐにアイヌと熊が連想される。つまり「北海道・アイヌ・熊」の三つには、切り離すことのできない密接な関係がある。

アイヌの人々は現在でも盛んに熊狩りを行い、子熊を生け捕りにして育て、その後に熊祭りを行っている。

しかし文化が進むにつれてアイヌの人口は年々減少し、このままでは絶滅の危機に陥るのも、それほど遠い将来のことではないだろう。また北海道の開拓が進むにつれ、熊の生活できる土地も狭められている。いま相当な保護を行わなければ、熊もアイヌとともに姿を消していくことになるだろう。

北海道を視察する多くの人々は、旭川から白老、あるいは帯広などで、必ずといってよいほどアイヌの集落を訪れ、彼らの日常生活や熊狩り、熊祭りなどについて話を聞くことであろう。

そうした際の参考となり、また汽車の中での退屈を紛らわせる読み物にでもなれば幸いと思い、この小冊子をまとめることにした。

アイヌについては、私の著書『アイヌの話』も読んでいただきたい。

大正十五年五月
旭川市近文アイヌ古潭にて
編者 識

アイヌの熊狩

昔から、南方の暖かい地方の住民は植物を利用する農耕生活を基本としてきたのに対し、北方の寒い地方の住民は、狩猟を生活の基礎としてきたとされている。

アイヌの人々も、今なお狩猟を好んで行っている。

熊を捕る方法には、大きく分けて、

「穴狩り」
「追い狩り」
「アマッポ狩り」

の三種類がある。

一、穴狩り

まず、熊が冬眠している穴を見つけることが何より重要である。

その場所については、アイヌ集落の古老に尋ねると、よく教えてくれる。

雪が降る前に古老から教えられた熊穴の場所に目印をつけておき、雪が降ってから、そこを一つ一つ見回る。

熊がこもっている穴には、直径二尺ほどの換気孔があるため、その様子を調べれば熊がいるかどうかはすぐ分かるという。

熊穴を発見した場合は、できるだけ静かにし、付近の林から手頃な丸太を数本切り出してきて、柵を作り、穴の入口をふさいでしまう。

熊は物を手前へ引いたり、横へ払いのけたりすることはできるが、前方へ押し出すことはあまりしない。そのため、入口をふさいだ柵をつかむと、むしろ穴の中へ引き込もうとする。

そこで外にいる者が長い棒を穴の中へ差し込む。

熊はその棒を引っ張ろうとして入口近くまで出てくる。

こうして熊を穴の入口まで誘い出したところで、別の者が銃で撃ち殺すか、あるいは槍で突いて仕留める。

ただし槍一本や二本では、熊にすぐ折られてしまうため、少なくとも三、四本は必要だといわれている。

熊穴の所有

付近一帯の山にある熊穴は、アイヌの人々がそれぞれ一つずつ、いわば世襲の財産のように考えている。

互いにその所有権を重んじ、他人の熊穴を勝手に利用するようなことはない。

二、追い狩り

毎年三月頃になると、一丈以上にも積もった雪の表面が、まるでコンクリートのように固く凍る。

北海道では、これを「堅雪(かたゆき)」と呼ぶ。

この堅雪の季節が、熊の追い狩りを行う最も適した時期である。

アイヌの猟師たちは雪上を歩き回り、熊の足跡を探す。

足跡を見つけると、その大きさから熊の年齢を推測し、足跡の新旧から熊がそこを通過した時期を判断する。

さらに歩幅の長短などから、熊が歩き始めたばかりなのか、それとも休息場所に近づいているのかなども見分ける。

追いつける見込みがあると判断すれば、その足跡をたどって熊を追う。

山を越え、谷を渡りながら足跡を追っていくと、やがて冬眠穴から出たばかりで疲れ、熟睡している熊を発見することがある。

猟師たちは静かに熊へ近づき、銃で仕留める。

この狩りで最も苦労するのは、最初に熊の足跡を追跡する段階である。

そのため猟師は軽装で、足には「テシマ」と呼ばれるかんじきを履く。

これは深い雪の中へ沈み込むのを防ぐためである。

三、アマッポ狩り

春から秋にかけて、熊が山野を歩き回る季節に行われる方法である。

これはアイヌ独特の猟法で、非常に工夫された仕組みになっている。

まず猟具について説明する。

「アマッポ」は一種の自動式の弓矢の仕掛けである。

弓には、アイヌ語で「チクベニ」と呼ばれる、粘りの強い木などを使用する。木を丸みをもたせながら平たく削り、中央の最も太い部分で厚さ約八分、幅一寸三分ほど、長さは普通四尺ほどに作る。

これにシナノキの靭皮をより合わせ、箸ほどの太さにした弦を張る。

矢は鉛筆ほどの太さの葦などを軸にし、長さは一尺四寸ほどである。矢羽根をつける場合もあれば、つけない場合もある。

矢の先端には白い角、あるいは硬い木を取りつけ、その先に鏃を差し込む。

鏃は竹で作られ、その根元には切れ込みを入れ、細い糸を巻いてある。

これを矢の先端へはめ込むため、鏃は比較的簡単に外れる。

しかし、この「外れる」ということ自体が重要な仕掛けなのである。

また鏃の竹の部分には縦方向の溝が掘られており、そこへ毒を塗る。

さらに「矢台」とでも呼ぶべき部品がある。

これはエゾマツなどを使い、片側を刃物のように薄く削ったもので、厚い側がおよそ五分、幅一寸三分、長さ一尺五寸ほどある。

矢台の中央付近には、長さ四寸、幅二分ほどの縦長の穴が開けられている。

この穴に糸を通して輪を作る。ここでは、この輪を「弦張止め」と呼ぶことにする。

矢台の一端には、さらに穴がある。

そこへ長さ五寸ほどの細い紐を通し、その先に「弦張」がぶら下がるようになっている。

弦張には自然に曲がった木を使い、先端を尖らせ、およそ百二十度の角度に曲げ、一方の穴に細い紐を通して結びつける。

このほか、腕ほどの太さ、長さ四尺ほどの粗末な杭を一本使用する。

杭の頭を割り、地面へ打ち込み、その割れ目に弓の胴を挟めるようにしてある。これを「弓持せ」と呼ぶ。

また、あらかじめ矢を納めておく筒形の容器もある。

アマッポの設置方法

まず弓を張り、弦張の先端を弦張止めの輪へ引っかける。

こうして弓を張った状態にする。

次に弓を横向きに寝かせ、あらかじめ地面へ打ち込んでおいた「弓持せ」の割れ目へ弓の胴を挟み、動かないようしっかり固定する。

矢を弦にかけ、矢台に沿わせて置く。

続いて弦張止めへ数間ほどの細い糸を結び、矢先の延長方向へ張って、その先を立木または杭へ結びつける。

ただし、この糸は強く張らず、少し緩ませておく。

この細糸を「そば張糸」と呼ぶ。

これで仕掛けは完成する。

猟師はそのまま何事もなかったように帰宅する。

熊がそこを通りかかると、胸のあたりに張られている細糸へ触れる。

熊がそのまま歩き、糸を引くと弦張が外れ、弓が作動して矢が飛び出す仕組みである。

原文では、矢が熊の肋骨付近へ突き刺さり、鏃に塗った毒が回ることで熊が倒れる、と説明している。

実に巧妙な仕掛けである、と著者は評している。

アマッポに使う毒