すすきのホテル殺人事件

頭部を持ち帰った娘と、止められなかった家族

事件概要

2023年7月2日。

北海道札幌市。

歓楽街・すすきのにあるホテルの一室で、一人の男性が死亡しているのが発見された。

発見場所は浴室だった。

男性は全裸だった。

そして――

頭部がなかった。

単に顔が損傷していたのではない。

首から上そのものが、胴体から切り離されていた。

さらに不可解なことに、男性が身につけていたはずの衣類、携帯電話、財布、車の鍵など、身元の特定につながる品々も部屋から消えていた。

まるで何者かが、

「この男が誰なのか、すぐには分からないようにしたい」

と考えたかのような現場だった。

前夜、ホテルの防犯カメラには男性と一緒に入室する小柄な人物が映っていた。

その人物は約3時間後、一人でホテルを出ている。

大きなスーツケースを引き、ホテルへ入ったときとは異なる服装をしていた。

金色のかつらも身につけていた。

では、その大きなスーツケースの中には何が入っていたのか。

後に警察がたどり着いた答えは、想像を超えるものだった。

殺害されたのは、北海道恵庭市に住む62歳の会社員、浦野仁志(仮名)。

そして、浦野と一緒にホテルへ入った人物として捜査線上に浮上したのが、当時29歳の田村瑠奈だった。

しかし事件は、瑠奈一人を逮捕して終わらなかった。

瑠奈の父親で精神科医の田村修。

そして母親の田村浩子。

最終的に田村家の3人全員が逮捕・起訴されることになる。

なぜ一人の男性の殺害に、一家3人が関わることになったのか。

なぜ瑠奈は被害者の頭部を切断したのか。

なぜその頭部を捨てず、自宅へ持ち帰ったのか。

そして最も理解しがたいのは、その後である。

田村家の自宅に持ち込まれた頭部は、そのまま保存された。

さらに瑠奈は頭部を損壊し、その様子を父親に撮影させたとされる。

家の中に、人間の頭部がある。

娘がそれを損壊している。

父親がカメラを向ける。

母親も、その異常な状況を知っている。

それでも警察への通報は行われなかった。

この事件の異様さは、ホテルで発生した殺人だけにあるのではない。

事件の前から長い時間をかけて形成されていた、田村家という一つの家族の関係そのものにあった。

いつ・どこで起きたか

事件の中心となった日時は、2023年7月1日夜から翌2日未明である。

場所は札幌市中央区。

北海道最大の歓楽街、すすきの。

7月1日の夜、浦野はすすきので開かれていたイベントに参加していた。

浦野は女装してイベントへ参加することがあり、この夜も繁華街へ出ていた。

午後10時を過ぎたころ。

浦野は会場を出た。

午後10時35分ごろ、小柄な人物と合流する。

田村瑠奈だったとされる。

そして午後10時50分ごろ、二人は近くのホテルへ入った。

その時点で瑠奈は、大きなスーツケースを所持していた。

ホテルという場所だけを見れば、男女二人が一緒に入っていくこと自体は不自然ではない。

ホテル側も、そこで犯罪が行われるなどとは想像しなかっただろう。

しかし約3時間後。

状況は大きく変わる。

午前2時ごろ。

ホテルのフロントへ電話が入った。

女性らしき声だった。

電話の主は、

これから自分一人で部屋を出る

という趣旨のことを伝えた。

まもなく、一人の人物がホテルから出てきた。

大きなスーツケースを引いている。

入室時とは服装も変わっていた。

金色のかつらを着用していた。

そして、その人物だけがホテルから去った。

浦野は出てこなかった。

翌7月2日午前11時。

チェックアウト時刻になっても、浦野は部屋から現れない。

ホテル側はしばらく様子を見た。

そして午後3時ごろ。

従業員が客室へ入った。

そこで浴室に横たわる男性を発見した。

頭がなかった。

首から上が切り離されている。

衣類もない。

携帯電話もない。

財布もない。

車の鍵もない。

警察が呼ばれた。

しかし頭部がないため、顔から身元を確認することはできない。

そこから、すすきのの一角を舞台にした異様な殺人事件の捜査が始まった。

登場人物

田村瑠奈――29歳

事件の中心人物。

当時29歳。

田村修と田村浩子の一人娘だった。

小学生時代から不登校が目立つようになり、その後も学校生活や社会生活になじめない時期が長く続いた。

成人後も両親と札幌市内の自宅で暮らしていた。

浦野を殺害し、頭部を切断して持ち去ったとして、殺人、死体損壊、死体領得、死体遺棄などの罪で起訴された。

田村修――父親

事件当時59歳。

精神科医。

旭川医科大学を卒業して医師免許を取得し、札幌市内の病院などで精神科医として勤務していた。

患者や同僚から極端に悪い評判があった人物とは資料上確認できない。

仕事とは別にギターやバンド活動も行っていた。

一方、家庭では一人娘の瑠奈に対して非常に深く関わっていた。

事件前には瑠奈と一緒に、のこぎり、ナイフ、大型スーツケースなどを購入。

事件当日は瑠奈を車で送迎したとされる。

さらに事件後、自宅へ持ち込まれた被害者の頭部を瑠奈が損壊する様子を撮影したことなどから起訴された。

田村浩子――母親

事件当時60歳。

美術関係の仕事を経験し、事件当時はパート従業員だった。

近隣住民からは庭の植物や美術の話をする穏やかな女性として見られていた。

しかし家庭の中では、娘・瑠奈の要求に強く逆らえない状態になっていた可能性が裁判で指摘された。

瑠奈が持ち帰った頭部が家にあることを知りながら通報せず、さらに瑠奈から頭部損壊の撮影を求められた際、夫の修に撮影するよう頼んだとして起訴された。

浦野仁志――被害者、62歳〔仮名〕

北海道恵庭市に住む会社員。

事件当時62歳。

すすきののイベントへ参加する際に女装することもあった。

瑠奈とは事件以前に知り合っており、まったく面識のない者同士ではなかった。

二人の間には性的接触をめぐるトラブルがあったとされるが、その内容について田村家側の説明と、その後裁判で示された事情には食い違いがある。

重要なのは、どのようなトラブルが存在していたとしても、それが殺害や遺体損壊を正当化するものではないという点である。

事件発覚まで

7月1日夜。

浦野と瑠奈はホテルへ入った。

その後、浦野が生きた状態でホテルを出ることはなかった。

翌2日。

頭部のない遺体が発見された。

警察が最初に直面した問題は、

「この男性は誰なのか」

ということだった。

顔がない。

携帯電話もない。

財布もない。

服もない。

身元確認につながる物が持ち去られている。

しかし翌日、浦野の家族から行方不明届が出されたことで、捜査は大きく進んだ。

遺体は浦野であることが確認された。

続いて警察が注目したのが、防犯カメラだった。

浦野と一緒にホテルへ入った人物。

そして一人だけでホテルから出ていった人物。

その足取りを、カメラ映像から追跡する。

人物は小柄だった。

大きな荷物を引いていた。

服装を変えていた。

金色のかつらも身につけていた。

頭部を持ち去った理由について、単純に身元確認を遅らせるためだった可能性も考えられた。

ところが、警察が後に知ることになる事実は、それ以上に異常だった。

頭部は捨てられていなかった。

札幌市内にある田村家の自宅へ運び込まれていたのである。

事件はホテルの一室で終わっていなかった。

殺人後も、田村家の内部で続いていた。

続きの文章
・犯人の生い立ち
・事件当日の詳細
・捜査
・裁判
・まとめ